フライデーこたつハイボール族と太宰ワールド
ケーブルテレビで放送している面白そうな映画をかたっぱしから録画している。金曜の夜は、ハイボールを飲みながらこのような映画を観て過ごすことが多い。一昔前にカウチポテト族ということばが流行ったが、それ風に言うなら私は「フライデーこたつハイボール族」だ。昨晩観たのは『マザーウォーター』と『ヴィヨンの妻』。
『マザーウォーター』は、小林聡美、もたいまさこといった『かもめ食堂』や『めがね』でおなじみのキャストだったので、てっきり荻上直子作品なのかと思ったら、そうではないことが判明。これといったストーリーはなく、ある町で暮らす数人の登場人物の日常生活を淡々と描いている。電車などで、知らない人どうしが話している内容がおもしろくて、つい聞き耳立ててしまうことがあるが、それを映画として堂々と観ているような感じだと言ったらわかりやすいかもしれない。
監督は違っても、漂う空気感は荻上直子作品と通じるものがあり、心地よい映画だった。私はこういう映画はけっこう好きだが、普通の人は退屈するかもしれない。
『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』は、太宰治の同名の小説を映画化したもの。あまり期待せずに観たためか、予想以上におもしろかった。サブタイトルに「桜桃とタンポポ」と付いているので、おそらく『ヴィヨンの妻』『桜桃』『タンポポ』の 3 つの作品を合体させたような内容なんだと思う。
私は高校生のころ太宰治に夢中になり、ほとんどすべての作品を読んだ。『ヴィヨンの妻』ももちろん読んだことがあるのだが、太宰治には内容がよく似た一連の堕落的な作品があり、『ヴィヨンの妻』もそういった作品の 1 つ。30 年前に読んだ太宰の堕落ワールドが繰り広げられ、『マザーウォーター』とは違った心地良さがあった。また、松たか子演じるヴィヨンの妻もとっても魅力的な女性だった。
私が初めて読んだ太宰治の作品は、国語の教科書に載っていた『走れメロス』だった。確か中学生のときだったと思う。人間はどうあるべきなのかを説いた『走れメロス』のような訓話的な小説をもっと読みたいと思った私は、『人間失格』や『斜陽』など、太宰治の作品を片っ端から読んでみた。しかし、太宰治のほかの作品は、『走れメロス』の世界とは程遠い、堕落的で破壊的な内容のものが多いことがわかった。むしろ『走れメロス』のほうが太宰作品としては異質なものであることに気付いた。
しかし、おとなになってから思ったことは、数が少ないからと言って、それが異質であると決めつけてはいけないということだ。むしろ、そっちのほうが本質だということもありえる。人でも物事でも、本質を見極めることは簡単ではないと思う。
今夜は日本映画専門チャンネルで『人間失格』が放送されるようだ。これも録画しておいて、また金曜日の夜にハイボールを飲みながら太宰ワールドを堪能しなくては。
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