きょうみみにっちょ - 大阪弁「ほんまもん」講座
ドラマや映画を見ていて気になるのが俳優さんのしゃべる変な関西弁。台詞や言い回しは完全でも、アクセントやイントネーションが変てこりんなため、関西弁と似て非なるものになっている。いくらドラマや映画の内容がすばらしくても、俳優さんがしゃべる関西弁が変だと、作品の魅力が半減してしまう。ときどき、関東出身のイメージがある俳優さんの関西弁がうまいなあと思うことがあるが、案の定関西出身だったりする。関西弁ネイティブかどうかがすぐにわかる台詞は、「あほなこと言わんといて」だ。これが上手にしゃべれる関西弁非ネイティブはほとんどいない。
このような現象は、関西弁に限ったことではないと思う。たとえば、ドラマなどで土佐弁を聞いても、私には上手か下手なのかはわからない。先日、阪神タイガースの中西清起コーチがラジオで、「龍馬伝」の福山 雅治氏の土佐弁はあまりうまくないと言っていたのを聞いて、へえーと思った。私たちが何とも思わず見ているドラマや映画でも、その地域の人にとってはものすごい違和感があるんだろうなあ。
突っ込みどころ満載なのが、竹内 力氏が銀ちゃんこと万田銀次郎を演じる「難波金融伝・ミナミの帝王」。「○○(人名)はん」「~でおま」「ほうでっか」「~でっしゃろ」「~まっしゃろ」など、実際には(特に若者の間では)ほとんど使われていない大阪弁のオンパレードである。関西に住んで 25 年になるが、生身の人間がこのような大阪弁をしゃべっているのを聞いたことはほとんどない。大阪らしさを強調するために、わざとこういう大阪弁を使っているのだと思うが、ここまでやると一種のギャグである(突っ込みどころ満載で、それはそれでおもしろいのだが)。
『大阪弁「ほんまもん」講座』(礼埜和男著、新潮新書)では、ドラマや芸人などによって間違ったイメージが定着してしまった大阪弁を紹介し、本物の大阪弁について解説している。「にせもん」の大阪弁として、「もうかりまっか」や「がめつい」などが取り上げられており、へえーと思うことが多かった。
この本によると、人名のあとにつける「はん」にも法則があるとのこと。ア段、エ段、オ段で終わる場合に「はん」を付け、イ段、ウ段、「ン」で終わる場合は、「さん」のままだという。この法則によると、「万田はん」や「常盤はん」などは正しいが、「青木」の場合は「青木さん」としないといけない。京阪電車の CM でおなじみの「おけいはん」も本来なら「おけいさん」が正しいとのこと。また、「シ」「ス」「チ」「ツ」で終わる場合は、「やまぐっつぁん」(山口っつぁん)や「たつよっさん」(辰吉っさん)のように促音化するという法則もあるらしい。
「ほんまもん」編で取り上げられていておもしろいと思ったのが「今日耳日曜(きょうみみにっちょ)」。「聞きたくありません」という意思を角がたたないようにやんわりと伝える表現である。「嫌です」とはっきり言わずに、「今日耳日曜」と言って逃げられたら、まあ「しゃーないか」と思ってしまう。
大阪弁「ほんまもん」講座 (新潮新書) 新潮社 2006-03 by G-Tools |