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1,000 円からお預かりします

 スーパーなどのレジで、「1,000 円からお預かりします」と言われると、イラッとして、「1,000 円から預かるんじゃなくて、1,000 円預かるんだろ」と心の中でつぶやいてしまう。「1,000 円ちょうどからお預かりします。レシートのお返しになります」などと、わけのわからないことを言う人もいる。「1,000 円から買い物の代金を差し引くと、レシートになるのか」と突っ込みたくなる。もちろん、いやなオヤジだと思われたくないので、何も言わないが。

 もう 30 年近くも前のことになるが、学生のときに地元のジャスコでアルバイトをしていたことがある。時々レジを担当することもあったが、当時は「1,000 円から預かる」のような妙な言い回しをする人はいなかったと思う。接客用語として特に教えられたわけではなかったが、社員やパートのおばさんたちの言い方を倣って次のように言っていた。

おつりが必要なとき: 1,000 円お預かりします。○○ 円のお返しです。
おつりが不要なとき: 1,000 円ちょうど頂戴します。

 たとえば、買い物の代金が 780 円で、お客様が 1,000 円を出したときには、1,000 円から買い物代金 780 円を頂戴することになるので、いったん 1,000 円を預かることになる。しかし、買い物代金が 1,000 円で、お客様が 1,000 円を出した場合は、1,000 円を預かるわけではない。この場合は、1,000 円をそのまま全額頂戴することになるので「1,000 円ちょうど頂戴します(いただきます)」と言うのが正しい。

 どうして、「~から預かる」という妙な言い回しが生まれ、それが幅を利かせるようになったんだろうか。昨日、偶然『愉快な日本語講座』という本を読んでいたら、この言い回しに関する記述があり、その疑問が解けた。この本の著者、添田 健治朗教授によると、これは混交によって生じた現象だとのこと。以下は、同書からの引用。

 混交とは、似たような場面において、似たような形の表現が複数聞かれるような場合に、そのそれぞれの語の要素の前半部と後半部とが、発話の流れに沿って混ざり合っていく現象で、話し手の心理が働いて生み出された言語変化の一つなのである。

的を射た x 当を得た = 的を得た
汚名返上 x 名誉挽回 = 汚名挽回
喧々囂々(けんけんごうごう) x 侃々諤々(かんかんがくがく) = 喧々諤々(けんけんがくがく)
(後略)

「1,000 円からお預かりします」は、次のような混交によって発生したのではないかとのとこ。

1,000 円から頂戴します x 1,000 円お預かりします = 1,000 円からお預かりします。

 なるほどねえ。これは説得力がある説明だ。納得。しかし、このような妙な言い回しが発生した理由がわかることと、それを使ってもいいか否かは別問題である。汚名挽回や喧々諤々が間違いであるのと同様、「1,000 円からお預かりします」も間違った日本語である。こんな言い方は許してはならない。世の中から、「~ から預かる」が撲滅されることを切に願う。

4093875804愉快な日本語講座
添田 建治郎
小学館 2005-06

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