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おとなに人気の伝記(スティーブ・ジョブズ)

 少し前のエントリー「こんなところでもイチロー」で、最近の子どもたちに人気がある伝記はイチローとヘレン・ケラーの伝記であることを書いたが、最近おとなの間で大人気の伝記と言えば、スティーブ・ジョブスの伝記である。私は、流行ものにはすぐに手を出さないタイプの人間であり、世間で大人気だと聞くと、逆に「流行に躍らされてなるものか」と思ってしまうへそ曲がりな面がある。これまでアップルの製品を使ったこともなく、アップルのファンということもなかったため、スティーブ・ジョブスの伝記に特には興味はなかった。

 しかし、ツイッターで、『スティーブ・ジョブス』の著者である井口耕二さんの翻訳がすばらしというツイートを何度も目にするにつれて、だんだん読みたいと思うようになる。同業者だけでなく、一般の方も「翻訳がすばらしい」と絶賛していたからだ。翻訳者を目指して修行していたころから、井口さんのことは翻訳フォーラムの主宰者 Buckeye さんとして知っていた。翻訳者の間では超有名な方である。翻訳の勉強という意味でも、やっぱり読んでおくべきだと考え直し紀伊国屋書店に走る。

 私などが、井口さんの翻訳を批評するのはおこがましいのだが、ストレスを感じることなくすいすい読める文章である。しかも、読み進めるにつれてどどんどん読みやすくなる。最近ますます老眼が進行し、本を読むのがおっくうになっている私が、上下巻合わせて 900 ページ弱の本を一気に読んでしまうほどおもしろく、にわかに、スティーブ・ジョブズのファンになってしまった。最近スマホユーザーになって喜んでスマホを使っている妻に、「そんな便利なものが使えるのも、ジョブズのおかげやで」などと言うほどだ。

 上巻(『スティーブ・ジョブズ I』)は、自分が創業したアップルをジョブズが追われるまでの話。下巻(『スティーブ・ジョブズ II』)は、ジョブスがアップルに復帰して、iMac を皮切りに、次々とヒット商品を生み出していく過程を描いている。私が PC を初めて買ったのが 1998 年。このあたりのことからはリアルタイムで知っていたので、開発の基盤となった思想や裏話は興味深かった。iMac、iPod、iPhone、iPad などで、ライバル会社をあっと言わせ、立場を逆転させていく様子を読んでいると、『難波金融伝・ミナミの帝王』の銀ちゃんこと万田銀次郎が、悪いやつらにほえ面をかかせるべく、逆襲を開始するときのような爽快感がある。

 スティーブ・ジョブズの伝記を読んで、心に残ったフレーズは「洗練を突き詰めると簡潔になる」だ。これは、IT 製品に限らず、すべてのことに当てはまることだ思う。仕事、人間関係、その他人生のもろもろのことは、何事も洗練を突き詰めると簡潔になるんだと思う。何事も難しくしてしまう私にはなかなかできないことだが。

 井口さんはご自身のブログで(『スティーブジョブズⅠ・Ⅱ』-誤訳の指摘)で、誤訳であると指摘された箇所について解説されている。こういう一流の人でも誤訳することがわかってある意味ほっとした。そして、人間誰しも自分の間違いは認めたくないものであるが、間違いは間違いと謙虚に認める姿勢はすばらしいと思う。私もこういう謙虚さを見習わないと。私は書籍の翻訳を経験したことはないが(ビジネス雑誌の記事を訳し、訳者として名前を記載してもらったことはあるが)、いつの日かこういうベストセラーを訳して、印税をがっぽがっぽしてみたいものである。


スティーブ・ジョブズ Iスティーブ・ジョブズ I
ウォルター・アイザックソン 井口 耕二

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