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世の中は怖いものだらけ

「ちょっとしみるかもしれませんよ」と歯医者が言う。
私は「はい」と答えながら、心の中で「それなら麻酔してくださいよ。麻酔」とつぶやく。歯の治療の中でいちばん嫌なのが麻酔なしで歯を削られる治療だ。麻酔をかけて行う治療なら絶対に痛くないので安心していられる。しかし、麻酔なしで治療する場合は、ひょっとしたら激痛が走るかもしれないと思うと、怖くて怖くて仕方がない。心臓が激しく鼓動し、体全体に力が入る。

 世の中には怖いものがいろいろあるが、私の中で歯医者はその最右翼である。4 月の初めから歯医者に通っているのだが、明日は歯医者だと思うと前の晩から憂鬱になる。毎週こんな思いをするのなら、全身麻酔をしてもらって、意識がない間に一気に治してもらえたらどんなにいいだろうかと思う。それなら 1 日くらい入院してもかまわない。

 歯医者以外にも怖いものはある。高いところもその 1 つだ。私は極端な高所恐怖症で、脚立に登るのさえ怖い。自由の女神の王冠の所まで階段で登った時には、怖くて直立できずにほとんど四つんばい状態だった。もちろんジェットコースターも大嫌いだ。USJ のバック・トゥ・ザ・フューチャー・ザ・ライドでは、実際には空中を飛んでいるわけでもないのに、気絶しそうになった。高いところから飛び降りたりするアトラクションなんてもってのほかだ。たとえ、バンジージャンプやスカイダイビングをやったら 10 億円もやると言われても、絶対にやらない。

 怖いもの御三家の最後はカミソリや刃物。ただし、現実世界の刃物やカミソリではなく、テレビドラマや映画に登場する刃物やカミソリに限定される。手首にカミソリを当てるシーンや、誰かが顔に刃物を突きつけられているシーンや、出術シーンなどは怖くて見ていられない。正確に言うと、人の皮膚から流れ出る血を見るのが怖いのかもしれない。そういうシーンになると目を手で覆い、「終わったら言うて」と妻に頼む。最近は、メスで切った皮膚から血が流れ出る手術シーンも珍しくないので、手術シーンは要注意だ。最近ドラマを観ていて怖いなと思ったのが、床屋でひげをそっているシーン。手が滑って顔が切れるんじゃないだろうかと思うとどきどきする。

 怖いもの番外編はホラー映画。洋画のホラーは平気なのだが、『貞子』とか『リング』といった、日本のホラーは怖い。飲み屋で他人が話していた霊の話を聞いただけで、うなされて夜中に悲鳴をあげてしまったくらいだから、『貞子』や『リング』などを観たら、その夜は夢でショック死をしてしまうかもしれない。日本のホラーは絶対に観ないことにしている。

 高いところや血は、まったく怖くないという人もいる。しかし、歯医者だけは程度の差こそあれ、誰にとっても怖いものだと思っていた。以前、そういう前提である女性と話していたら、「歯医者は全然嫌いじゃない。むしろ好きなくらい」と言われて驚いたことがある。「歯医者が嫌いだとか怖いとか言う人の気持ちがわからない」と書いているブログ記事を読んだこともあるが、それもやっぱり女性だった。ジェットコースターや高いところが好きなのも圧倒的に女性のほうが多い。男は血を見ると卒倒するけど、普段血を見慣れている女性は血なんか全然怖くないという話も聞いたことがある。

 生命力(寿命)にしても、痛みに対する強さにしても、精神力にしても、男は女に太刀打ちできない。「男は度胸」ということばがあるが、それは嘘だ。いざというときに本当に腹が座っているのは、絶対に男よりも女だと思う。「母は強し」とは言うが「父は強し」とはあまり言わないしね。本当の強さという意味で女よりも格段に劣る男が身に付けるべきものは愛嬌である。声を大にして言いたい。これからの時代は「男は愛嬌、女は度胸」だ。






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