2D のテレビなんて見てられない
技術翻訳の仕事をしていると、まだ世の中では一般的に知られていない、最新のテクノロジーを扱った文書を訳す機会がある。発展途上の分野だと、訳語が確立されていなかったり、概念を理解するのが困難だったりして、訳すのに苦労することもある。しかし、世の中の人がまだ知らないであろう情報を、いち早くこっそり知ることとができる。これは私たちに与えられた特権かもしれない。
先日も、3D テレビに関するプレゼンテーション資料を訳した。3D メガネを必要としない次世代の 3D テレビの仕組みに関する最新の情報を扱った文書だった。
私が物心ついたときのテレビ番組は当然すべて白黒だった。当時子どもの間で人気があった番組と言えば、「エイトマン」「スーパージェッター」「鉄人 28 号」といったアニメだ。実写ものでは、ちょうど私たちが小学生になるころに、ウルトラシリーズの最初の作品「ウルトラ Q」の放送が始まった。
わが家にカラーテレビがやってきたのは、小学 4 年生(10 歳)くらいのとき(1970 年ごろ)だったと記憶している。カラーテレビで初めて見た番組はプロ野球中継。ミスタージャイアンツこと長島さんがまだ現役だったころである。確か、巨人対阪神の試合だった。当時のプロ野球では、ビジターのユニフォームに水色を基調としたものを使うのが流行っていた。その水色のユニフォームが鮮やかに映し出され、映像がすごくきれいだったことに感動した。
その後、白黒の番組は姿を消していくことになる。それまで、何の不満もなく白黒テレビを見ていたのに、いったんカラーに慣れてしまうと、「白黒なんて見てられない」と思うようになる。一度レベルの高いものに慣れてしまうと、それまでのものでは満足できなくなるという現象は、映像の質に限ったことではないが。
時が流れ、わが家に地デジがやってきたのは 3 年ほど前だったろうか。地デジの画像を初めて見たとき、確かにきれいだとは思ったが、白黒からカラーに変わったときほどの衝撃ではなかった。確かにきれいだが、これまでのアナログ放送の映像でも十分満足できると思った。それがどうだ。最近では、CS などで、ちょっと画像が粗いアナログの番組をやっていると、「こんな質の悪い画像なんか見るが気しない」と思ってしまう。10 歳のときにあれほどきれいだと思った映像なのに。おそろしやおそろしや。
2009 年に大ヒットした「アバター」も 3D テレビも実際に見たことがない私には、3D で長時間ドラマなどを見ることがどんな感じなのかよくわかっていない。リアル感や臨場感やその他もろもろ、それはたいそう興奮を与えるものであろうことは想像できる。20 年後、いや 10 年後には、すべての番組が 3D 化され、「2020 年 7 月からは 2D 放送は終了します」といったメッセージが画面に表示されていたりして・・・。
今は、「2D テレビで十分だ」と思っているが、過去の経験からすると、今のままで十分なんてことは絶対にありえない。「2D なんて、辛気臭くて見てられんなあ」とつぶやく日が来るのも、それほど遠くない将来のことなのか。
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