中近両用眼鏡を作りました
手をいっぱいに伸ばして本を読んでいる私に対して妻が言う。
「それは冗談でやってんの?」
悲しいが決して冗談などではない。
「ここまで離さんと見えんのや。そのうちマジックハンドが要るようになるかもしれん」
老眼が始まっていることを認識したのは 42 歳の時だ。そのことを知った時は本当にショックだった。体力の衰えなど、いろんな面で老化を感じることはあるが、老眼はいかにも老人になったような気がして悲しくなる。子どものころ、手をいっぱいに伸ばして字を読む年寄りを見て、なんでこんな字が見えないのだろうと不思議に思っていたのだが、まさに自分がその状態になったのである。近眼は老眼になりにくいというのはまったくのデマだった。
あれから 10 年になる。老眼はますます進行し、最近では日常生活にも支障をきたしだした。たとえば、食事のときに目の前の食べ物が何なのかわからないことがあったりする。そろそろ遠近両用を作らないと思いながら 3 年ほど過ぎてしまった。最近では、携帯で写真を撮るときでも(近視用)眼鏡を外さないと画面が見えないようになったので、ついに中近両用を作ることにした。
1 週間前に作った中近両用眼鏡ができたとの連絡があったので受け取りに行く。本当は上岡龍太郎氏がかけていたようなフルリムの透明のセルフレームが欲しかったのだが、なかったのでリムレスのセルフレームにした。元眼鏡屋(眼鏡フレームとサングラスのメーカー兼商社勤務)としては、フレームに金を出すことはバカらしいのだが、手持ちのフレームを持参して「レンズだけ入れてくれ」などと言う客はもっとも嫌な客であろうことは容易に想像できるので、そういうことをするのはやめておいた。
中近両用というだけあって遠くはやはり見えにくい。しかし、PC の画面を見ながらメモを取ったり、メモを見ながら PC 画面に入力したりといった作業がずいぶん容易にできるようになった。テレビ画面を見ながら近くの小さい文字も見えるようなった。何よりも嬉しいのは、眼鏡をかけたまま読書ができることだ。今日から眼鏡は完全に老人仕様だが、心はまだまだ老人仕様にはなりたくない。
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