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花金を『トイレット』で過ごす

 社会人になったばかりのころ、「花金」ということばが流行った。今では完全に死語になってしまった感があるが、花の金曜日の略である。金曜日の晩に繁華街に繰り出してぱっと遊ぶことを意味する。当時、中小企業にも週休 2 日制が定着し始め、私が勤めていた会社も例に漏れず、途中から完全週休 2 日制が導入された。毎週のように、開放感たっぷりのパラダイスな花金を楽しんだものである。

 フリーランス稼業を始めてからは、曜日はほとんど関係ない生活を送っているが、昨日 5 週間ぶりに仕事が途切れて、久しぶりの花金状態になった。しかし、夜の街に繰り出して大騒ぎする元気もないし、急に付き合ってくれるような飲み友だちもいない。TSUTAYA でもらった無料 DVD レンタル券の使用期限が近づいていたので、DVD を観て花金を過ごすことに決めた。借りたのは、『トイレット』と『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』。

 まずは『トイレット』を観る。『かもめ食堂』や『めがね』の荻上直子監督作品ということもあり、前から観たいと思っていた映画だ。舞台は北米東部のとある町。長男モーリー、次男レイ、妹リサの 3 兄妹の母親が死んだところから物語が始まる。母親が死ぬ前に日本から呼び寄せた 3 人の祖母である「ばーちゃん」と猫のセンセーと 3 兄妹の奇妙な生活が始まる。日本の映画でありながら台詞は全部英語。登場する日本人も主演のもたいまさこだけで、主演であるにもかかわらず台詞はひとことだけという変わった映画である。

 『トイレット』は期待以上におもしろかった。『かもめ食堂』や『めがね』と共通するほんわか感というかゆるやか感というか、うまく表現できないけど、そのスローな感じがたまらなく心地良い。妻には「変な映画が好きやなあ」と言われるが、私にとってはツボにはまりまくりの映画だった。「荻上直子は天才だ」と声を大にして言いたい。『トイレット』は現代の花金にぴったりの映画。


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