胃カメラ初体験
「この際だから、胃カメラと大腸カメラやっときませんか」。
医者にそう言われて、「はい」と答えるしかなかった。大腸カメラまでは想定外だったが、医者の言うとおり、この際だから両方の検査を受けることにした。
胃の具合が悪いと感じ始めたのは数週間前。なかなか病院に行かなかったのは、胃カメラがどうしても嫌だったからである。今時、病院に行って胃の具合が悪いと言えば、胃カメラの検査を受けろと言われるに決まっている。私は胃カメラが恐ろしくて仕方がない。できることなら回避したいのだ。しかし、しばらく様子を見ていれば自然に治るかもしれないという期待に反して、症状は悪化する一方。さすがの私も観念して病院に行くことにした。今週の月曜日のことだ。
胃カメラの検査は4 日後の今日に決まった。この 4 日間は本当に落ち着かなかった。胃の具合が悪いと感じ始めたころ、ツイッターで「胃カメラってすごく苦しいって言う人と、どうってことないって言う人がいるけど、どっちが本当なん?」みたいなことをつぶやいたところ、多数の方からリプライをいただいた。「どうってことない」って言う人が半分。「あんなこと二度とやりたくない」と言う人が半分。正反対の意見が半々なので、どちらを信じたらいいのかわからなくなったが、「鼻から入れる方法だったら楽だよ」と言ってくれた人が何名かいたので、迷わず「鼻から」を選んだ。
この 4 日間が憂鬱だったのは、胃カメラそのものに対する恐怖だけではない。どういう検査結果が出るのかも怖かった。恐ろしい病名を告げられ、「もう手遅れです」と言われる場面を何度も想像しては、「絶対に大丈夫。何でもない」と自分に言い聞かせる。その繰り返しだ。さらに、検査に関する注意事項に、「2003 ~ 2007 年の 5 年間で、検査時に使用する静脈麻酔薬による死亡例が 3 例報告されている」という記述を発見。まさか、胃カメラで死ぬことはないだろうと思っていたのだが、そうとも言い切れないことが判明。
いよいよ、検査日がやってきた。昨晩はあまり寝られなかった。妻に、「そしたら、覚悟を決めて行ってくるわ」と言うと、「何を大げさなこと言ってるの」とそっけない。過去に死亡例がいくつかあることを伝え、「これが最後になるかもしれんから、よう顔見といて」と言うと、こちらを見ることもなく、「あほくさ」ということばが返ってきた。
9 時 30 分。胃カメラ検査が始まる。左の鼻から管を通される。鼻の奥の狭い個所と喉を通るときに若干の違和感はあったが、どうってことはなかった。「食道を通過してこれから胃に入ります」とか「これから十二指腸を見ますね」などと言われるが、まったく何も感じない。5 分から 10 分くらい経過したころ、「はい、終わりました」と言って、鼻から管が抜かれる。胃カメラは、恐るるに足らずだった。人に「胃カメラってどう?」と聞かれたら、「鼻からの場合、多少は気持ち悪いけど、ほとんど苦しくなかった」と答えるだろう。
どんな結果だったんだろうと、どきどきしていた。
「軽い胃炎ですね。特に心配はいりません」。
この結果を聞いてほっとするのと同時に、拍子抜けしてしまった。これまで、胃の具合が悪くなったことがない私としては、少なくとも胃潰瘍くらいにはなっていると思っていたのに。とにかく、大したことがなくてよかった。一安心だ。第一関門突破。次は、2 週間後の大腸カメラだ。1 年前にわき腹の違和感で診察を受けた際に、CT では特に異常が見つからなかったのだが、この際安心のために大腸カメラで見ておきましょうとのこと。そうは言われても、不安を感じてしまうのが私なのだ。
家に帰って妻に「無事生還したで」と伝える。「胃カメラで、無事生還は当たり前や」と言われる。