ずっと観たいと思っていた『舟を編む』をようやく観る。仕事でも趣味でも日ごろお世話になっている辞書。その辞書の編集に携わる人たちを描いた映画ということで、公開当時から観たいと思っていた映画である。
営業部では今ひとつさえなかなった馬締光也が辞書編集部に移動し、水を得た魚のように生き生きとし、辞書作りに没頭していく様子はうらやましくもあった。仕事に没頭できるということは幸せなことである。ビートたけしさんのことばを借りれば、「世の中で最も幸せな人間は、何よりも仕事が楽しい人、つまり「仕事=遊び」の人」らしい。そのとおりだと思う。残念ながら、仕事が何よりも楽しいということはないが、休みなしで毎日仕事をしていてもそれほど苦にはならない。サラリーマンをしていたころは、日曜日の夕方になると憂鬱な気分になっていたことを考えると、馬締君には遠く及ばないにしても、幸せな生活を送れているのかなと思う。
『舟を編む』を観ていてあるドラマが思い浮かんだ。先日放映されたトヨタ自動車をモデルにした『LEADERS』というドラマである。このドラマの主人公の愛知佐一郎は寝ても覚めても国産自動車を作ることばかり考え、誰もが無理だと言った初の国産自動車の開発に成功する。それは、仕事というよりも、自分の手で日本人の自動車を作るのだという挑戦(=遊び)であるとも言える。モデルはトヨタ自動車創設者の豊田喜一郎氏らしいが、この人も世の中で最も幸せな人間のひとりだったのだろうと思う。このドラマの中で主人公の愛知佐一郎が「無限動力」について次のようなことを語っていた(台詞は不正確)。
もし無限動力というものがあるとすれば、それは人間が情熱を燃やし続けて努力を続けることだ。そして困難に挑む情熱が次の世代へと絶えず受け継がれていくことこそが無限動力である。
このドラマはあくまでもフィクションらしいので、豊田喜一郎さんがこのようなことを言ったのかどうかは知らないが、これまで世の中を変えて来たのは、そしてこれからの世の中を変えていくものは、こういった人たちの情熱なんでしょうね。
日々ことばと格闘しことばと関わっている翻訳者として、辞書作りの大変さを描いた『舟を編む』はとてもおもしろい映画だった。DVDを借りたTSUTAYAでは、この映画を恋愛映画に分類していたが、どう考えてもこれは恋愛映画ではないと思う。私としては「最も幸せな人間」映画に分類したいところだが、そんな分類は却下されそうだ。